第7回研究発表大会(鎌倉女子大学)報告

《 平成21年11月28日(土),29日(日)の両日に渡り,延べ450名が鎌倉女子大学大船キャンバスに参集して,第7回日本教育カウンセリング学会研究発表大会が開催された。

◆第1日目(11月28日)

◎自主シンポジウム

'' 大会は,10時より,6組の自主シンポジウムから開始した。
 ①グループでは,の「STEPを活用した学級づくり」を主題に,真の民主主義を子ども時代に体験させるという大きな視点から,STEP的アプローチを学級づくりに活用している実践と成果が報告された。
②グループでは,「健全な自己愛育成と現実原則の内在化  ――教育指導法
SGEの機能― 」を主題に,エスをコントロールするエゴ機能の検閲機関としてのスーパーエゴの育成上,SGEの果たす役割や効果について検証した。
 ③グループでは,「ADRカウンセリングによる学校における紛争解決 ―教育カウンセラーと行政書士の連携の試み―」を主題に,人間関係を配慮した紛争解決法である「裁判外紛争解決」(ADR)による学校紛争解決についての様々な事例や意義についての報告をもとに議論が進められた。
 ④グループでは,「構成的グループエンカウンター(SGE)を授業に活かすために―その現状と発展のために― 」を主題に,SGEの授業への活用や人間関係づくりプログラムについての事例報告や提案があり,その成果や改善点が論議された。
 ⑤グループでは,「ヘルスカウンセリングの課題」を主題に,ヘルスカウンセリングの歴史をたどりながら,問題発見型カウンセリングの導入など,現場の事例報告を中心に論議・検証を進めた。    
 ⑥グループでは,『ガイダンスカリキュラム(授業型の生徒指導)の授業と工夫 ―模擬授業で体験する「育てる生徒指導・教育相談」の最前線―』を主題に,GCの必要性や学校への導入上の配慮事項等についての諸提案後,ストレス対処」をテーマに,参加者を児童に見立てた模擬授業があり,フロア全体が盛り上がった。
 *◎開''会式
'''''' 門田美恵子大会事務局長の「開会の辞」に始まり,米山弘大会会長の「歓迎の辞」 ,冨田久枝  大会実行委員長の「大会趣旨の言葉」があり,ついで,國分康孝学会理事長・中村道子協会副会長からそれぞれ「大会への期待や会場準備r等への感謝の言葉」や「リチュアル」により,コミュニケーションを深めるなかに大会は始まった。
 *◎基調講演
'''' 演題「人間教育の原点と教育カウンセリング
  - ペスタロッチーの教育思想との関連から -」 
       第7回研究発表大会会長 米山 弘 
        (鎌倉女子大学児童学部長)
①ボン大学講師の4年間
・子ども2人を連れて行った。校長の「教育には時間がない」との考えで翌日から地元の学校へ。上の娘に担任は「君,なにができるか」と尋ねた。娘はみんなの前で玉川学園の歌を歌った。弟のクラスでは,息子は歌が歌えないので,自分の名前を漢字,ひらがな,カタカナで書いた。「三つの言語で自分を名前を書いた」と大喝采であった。日本の転入のやり方と違った。このような対応を見て,ドイツでは「教育は教えるのではなく,引き出す」ことであることがよく分かった。
・明治にeducationを教育と訳した。教育は空っぽの子どもの中に知識を注ぐことではない。大和言葉の「おしえる」は「おしむ」であり,思いやりをもって「愛する」ことである。そして礼儀作法が日本の教育の大切なものであった。
②ヨハイン・ハインリッチ・ペスタロッチの生涯について
・ペスタロッチ64歳の時のライフマスク(生きているときに作った顔の形のマスク)を紹介。ペスタロッチは,人類の救済と人間教育の方法の探究を行った。「隠者の夕暮れ」では「全てのものを他の人のために自分のためには何ももたず」と述べている。
▽略伝
・生い立ち―家庭(父の逝去と母の苦労)―祖父アンドレアスの影響―学生時代,ルソーの影響を受ける。  
・ノイホーフの新居―尊敬していたブルーチェリーが病気になりアンを託される。多くの手紙のやりとりがあった。結婚し,貧児・孤児の救済活動を始める。資金はアン婦人の親類が面倒を見てくれた。雑誌に広告を出し,多くの義援金が集まった。貧しい家の子どもが多く来るようになったが,義捐金が集まらなくなると救済事業は傾き閉鎖する。
・作家活動―「隠者の夕暮れ」,「リーンハルトとゲルトルート」社会派の作家活動家として問題作の執筆で有名になる。ペスタロッチは,「家庭の親子関係が大事である」として,自然,人が生きること,生命の息吹を大切にしている。
・聖クララ女子修道院→シュタンツの孤児院,ミュンヘンブーフゼーの学園→イブエンドルの古城(学園は新教育のメッカに,生徒250名が集まった)→クラウディの貧民学校→ノイーホーフ(終焉の地)
③ペスタロッチの教育
・特色は「合自然の教育」と「直観教育」の2点。
・直観教育では,外的直観と内的直観があり,人間を全体的有機的一体と捉え,頭・胸・手を調和的に発達させようと直観教授を提唱した。
④米山先生によるペスタロッチの歌のハーモニカ演奏
※詳細は第7回研究発表大会論文集を参照          (記録者:水上和夫)

''◎実行委員会企画シンポジウム

''①鎌倉女子大学企画                            
 「一人一人の幼児・児童・生徒の学びと発達を支援する教師の連携」
 小1プロブレム、中1ギャップなど,子どもたちの急激な変化への対応として,生涯教育の視点を導入し,発達や学習の連続性を重視した,幼小,小中,中高の連携教育が強調されるようになってきた。そこで,幼稚園・小学校・中学校・高等学校それぞれの立場から連携教育を進める上での教育観のずれや教育内容・方法の吟味,教師の在り方や保護者への対応,今後の課題等について提案があり,フロアも交えて熱心な討議が進められた。
 ②神奈川県教育カウンセラー協会企画             
『教育カウンセラーは不登校対応のリーダーたれ!
「教師(学級担任)」が取り組む不登校対応の充実のために』
 不登校の最終的解決は「自分で決めて,自分で考え,自分で行動すること。その結果として学級に復帰する」(花輪敏男)ところにある。しかし,受入場所としての学校外の適応指導教室などへの依存性が高く,肝心の学級担任をはじめとする学校教師の不登校対応が不十分なのが現状である。
 神奈川県教育カウンセラー協会では,育てるカウンセリングこそ教師・児童・生徒・保護者の人間関係を構築し不登校を予防・解決していく基本として,2泊3日の「不登校対応チャート」ワークショップ を開催し,現場教師の啓発を図り,多くの学級復帰の成果をあげているところである。 その他,不登校対応の実際についての事例も報告され,熱心な議論が展開された。
 

''◎総会

''①河野前理事長挨拶:会員数は3千人を突破した。今後は,個人発表者が倍増することを期待する。   
②國分新理事長挨拶:教師には1,ティチングが上手2,ガイダンスができる 3,リサーチができる 4,マネージメントができる。この4っが求められている。
③審議事項:
 1,平成20年度事業・会計報告の承認
 2,平成21年度事業・予算の承認
④冨田第7回大会実行委員長挨拶:歓迎の言葉
⑤片野第8回大会準備委員長挨拶:来年の大会は,跡見学園女子大学で開催します。皆様ご参加ください。

''◎情報交換会

'' 米山大会会長・河野準備委員長・國分学会理事長・岸協会総務委員長などの挨拶,岡田学会事務局長の乾杯のあと,門田美恵子大会事務局長により鎌倉の食材について説明があった。鎌倉ハム,鎌倉コロッケ,高座豚角煮,鎌倉地ビール,鎌倉ワイン,日本酒古都鎌倉等々,参加者皆料理に舌鼓し,美酒に酔いしれた。
 さらに,三縄公一先生指揮による鎌倉女子大学ブラスバンド部の演奏が行われた。素晴らしい演奏で國分先生ご夫妻も睦まじく手拍子をとられるほどで,参加者の興趣をいやが上にも盛り上がらせた。その後各支部の活動報告があり,冨田第7回大会準備委員長,片野次期(第8回)大会準備委員長の挨拶で会は締めくくられた。
 なお,次次期(第9回)大会は,北海商科大,北海学園大学で開催される。    

◆''第2日目  (11月29日)

'' ◎個人発表    
1-1口頭発表
 口頭発表は,9分科会に分かれ,31組(延べ42人)の発表があった。内容としてはSGE関連,学業指導関連,特別支援教育関連,不登校や適応指導関連の実践研究の発表が多かったようである。
 座長さんは司会役・報告者・記録者の1人3役で大変だったようである。また,今回は,発表ムードを損なわないようにタイマーを使用せずカード提示方式にしたが,発表に集中するあまり「あと2分」の表示に気付かない方も多く来年度の検討課題となった。
1-2事例研究
 事例研究は,5分科会に分かれ,17人の発表があった。内容としては,不登校関連の事例が圧倒的に多く,ついで,いじめ関連や特別に支援が必要な児童・生徒への対応,進路指導や生徒指導関連等の事例が報告された。なお,今年度は意見の交流やシェアリングを尊重し,従来のスーパーバイザー役の名称を座長と変えて事例研究を深めるようにした。
1-3ポスター発表
 16組(延べ17人)の発表があり,どのポスターの前でも説明・質問・意見交換の渦で,教室は熱気に満ち溢れた。しかし,もう少し発表参加者が欲しいところである。

◎コミュニティモール・ミニコンサート
 昼食時に,鎌倉女子大学生によるフェアリーアンサンブルによる優雅な演奏,沖縄舞踊研究会による勇壮典雅な舞踊が披露され,来会者の絶賛を浴びた。

◎ラウンドテーブル
 特別支援教育(18名),不登校,生徒指導(14名),学習指導(8名),特別活動(9名),SGE(20名),キャリア教育(10名),乳幼児・家庭教育(12名),シェアリング方式グループスーパービジョン(16名),ヘルスカウンセリング(10名),スクールカウンセラー相談員(19)の11部会に分かれて開催された。括弧内の数値のように参加者数は部会により様々であった。ラウンドテーブルのテーマはキーワード的タイトルにしてあるが,次回からは,例えば「学習指導」を具体的に内容がわかりやすいように「対話のある授業づくり(学習指導)」というタイトルに変更することも考えられる。
 また,ラウンドテーブルは,特定のトピックをめぐって,参加メンバーが体験を通して感じたこと,気付いたこと,疑問に思ったことを語り合うグループ学習であるが,初参加者には多少の説明・解説などの研修的要素も導入していく必要があろう。

◇▽○……かくて2日間の大会は無事に終了し,参加者は,大会実行委員の先生の握手やお手伝いの学生さんの笑顔に送られて大会の幕は閉じた。(文責:池場 望)